モンスター社員対応

2008年から現在までの間に、大きく変化したことは何でしょうか。

一つ目はスマートフォンの普及です。

二つ目は労働契約法等の労働条件に関する改革です。

1.労働契約法の制定(平成19年12月5日公布、平成20年3月1日施行)

2.労働審判法の制定(平成18年4月1日施行)

3.労働基準法の大幅な改定(平成20年4月1日施行)

→特に、時間外労働抑制のため、「割増賃金の割合」に関する改定

4.現在の議論(働き方改革、裁量労働制、割増賃金の消滅時効延長)

今後、労働法の整備が加速化していくことが予想されます。

三つ目は弁護士数の増加です。

ここ10年間で大きく変わった上記の3点を踏まえると必然的に導かれるのは、「労働訴訟の急激な増加」です。

では、あらためて「モンスター社員」とはどういった社員を指すのでしょうか。

近年、増え続けているモンスター社員の特徴とはなんでしょうか。

(1)無責任型

遅刻、欠席が多い、すぐに辞めていってしまう等

(2)無気力型

業務命令に従わない、精神的に弱い等

(3)成績不良型

サボっている、手を抜いていることが明らか等

(4)対攻撃型

パワハラ、セクハラが認められる、従業員トラブルが絶えない等

(5)犯罪・逃亡型

横領や会社のカギ、貸与した携帯電話等を持ち逃げしてしまう等

この五つの類型に分類することができます。

モンスター社員とのトラブルの傾向は、

(1)無責任型

⇒新入社員に多い傾向

EX) 解雇無効、未払残業代金、損害賠償等の請求

(2)無気力型

⇒新入社員に多い傾向

EX) メンタルヘルスによる休職(社会保険料の負担)、労基署に長時間労働

違反等の申告、パワハラ、セクハラ等の損害賠償請求等

(3)成績不良型

⇒中堅社員、ベテラン社員、中途採用社員に多い傾向

EX) 未払残業代、解雇無効

(4)対攻撃型

⇒ベテラン社員、新入社員に多い傾向

EX) パワハラ、セクハラ等の損害賠償請求

(5)犯罪・逃亡型

⇒ 突如発生することが多い

EX) 解雇無効

モンスター社員対策

モンスター社員対策その1は、未払残業代請求に対する対策です。

未払残業代について、トラブルになる場面としては

(2)無気力型社員(3)成績不良型社員に多くみられます。

残念ながら裁判になった場合には、法律上、残業代を支払わないといけなくなります。

労働時間とは、「①使用者の指揮命令下に置かれている時間であり、②労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価できるか否かにより客観的に定まるものであって、③たとえ、労働契約、就業規則、労働協約等の定めがあったとしても、それらに基づいて計算されるものではない」とのことです。

簡単に、営業時間・業務時間は何時から何時までとされても、タイムカードとして労働

時間を管理していた場合には、残業代が発生した時にはほぼ残業代として支払わないといけません。

では未然に防止するには日ごろからどうすればよいでしょうか。

大きなポイントとしては3つあります。

①徹底した時間管理を

タイムカードでの時間管理の場合、タイムカード記載の時間が「労働時間」であると認定されてしまいます。

②漫然と放置してはいけない

だらだらと残業していた、さぼっていた場合には、メールや始末書という形で証拠として残しておくことが望ましいです。

③時間外労働が発生した場合には、時間外労働に対して支払うようにすること

残業代を2倍請求されること(付加金)を防ぐためです。

モンスター社員対策その2はパワハラ、セクハラに対する対策についてです。

パワハラ、セクハラについて、トラブルになる場面は、

(2)無気力型社員(4)対攻撃型社員に多い傾向があります。

無気力型社員の場合、パワハラ、セクハラ等により業務上の疾病(うつ病、統合失調症)にかかってしまったため突如の休職からの損害賠償請求をしてくるケース。

対攻撃型社員の場合、パワハラやセクハラをされた社員からの損害賠償請求が多くあります。

会社が漫然と放置していた場合には債務不履行責任・使用者責任として賠償金を支払う義務が生じることがあります。

そもそも、パワー・ハラスメントとは、「①上司が職務権限を使って、②職務とは関係ない事項あるいは職務上であっても適正な範囲を超えて、部下に対して、③有形無形に継続的な圧力を加え、④受ける側がそれを精神的負担と感じた時。」にパワハラにあたります。

ポイントとしては、上司の行為が業務上の指示にあっても部下の人格を否定するような言動を使用したときには、パワハラに該当する場合があることに注意が必要です。

セクシャルハラスメントとは、「①相手方の意思に反する性的言動をいい、②行為をした者の意図如何にかかわらず、相手方が性的に不快感を持つことがあったとすれば、当該行為はセクハラに該当し、相手方の人格的利益及び良好な職場環境で働く利益を侵害するもの」と定義されています。

簡単にいうと、相手方が性的に不快感を覚えれば、その時点でセクハラに該当する場合があります。

また、「職場」とは従業員が通常勤務している場所以外であっても、業務を遂行しているとみなされる場所であれば職場にあたるため、社員旅行中、忘年会、新年会、暑気払い等の行事においてもセクハラとなる場合があります。

会社に求められるパワハラ・セクハラ対策

(1)パワハラ・セクハラ防止規定・ガイドラインの作成・周知

従業員に対してはパワハラ・セクハラに関する方針を明確にし、それに対して教育・指導、パワハラ・セクハラが発生した場合の会社側の対応基準、セクハラ・パワハラ行為をした者に対する懲戒等につき、周知することが必要となってきます。

➜就業規則には委任規定を置いておくことが必要と考えられます。

(2)相談窓口を設置、適切に対応するための体制の整備

相談する場所については第三者機関や相談される人物を先に定めておくこと。

事実関係をしっかりと確認して、加害者側に配置転換や物理的接触がないよう配慮を行うよう対策することが重要です。

(3)再発防止策等の実施

定期的に研修会や講習会の実施。アンケート調査の実施(匿名)。

プライバシー管理。

モンスター社員対策その3はモンスター社員を解雇したいときの対策です。

モンスター社員と関わりたくないため解雇したいとなった場合

「すぐにでも辞めさせたいのだが、どうすればよい?」

という相談が多くあります。

しかし、ちょっと待ってください。

その解雇、無効となる可能性はありませんか?

では、モンスター社員をすぐに辞めさせることができるのでしょうか。

A.安易に解雇してしまうと、足元をすくわれる可能性が高いため、すぐに辞めさせるのはなるべく避けた方がよい。

その理由としてはリスクが多くなります。

解雇無効となってしまうと、解雇日から働いていたことになります。

そうなるとその期間の賃金は支払わないといけなくなるのです。

解雇予告手当、休業手当、未払残業代、有給休暇の2倍を支払わないといけない危険性が高まり、損害賠償請求がなされる危険性が高まります。

では、どうすればよいのでしょうか。

絶対にしてはいけない『5箇条』

社員への解雇において「間違った」対応方法を5つあげさせていただきます。

労働災害に基づき休職していた従業員に対して、なかなか復職しないから、解雇とした。

➜業務上の傷病による休業期間及びその後30日間の解雇は禁止されています。

(労働基準法19条)

女性従業員が結婚して出産予定または子育てが忙しいと思い、解雇とした。

➜女性労働者が婚姻し、妊娠し、出産し、または産前産後休業をしたことを理由とする解雇(均等法8条)及び産前産後の休業期間及びその後30日間の解雇は禁止。(労基法19条)

使用者に敵対する労働組合に従業員が入ったため、解雇とした。

➜不当労働行為にあたる解雇は禁止されています。(労働組合法7条)

内部告発をした人物について、内部告発をしたことを理由に、解雇した。

➜行政官庁又は労働基準監督署に申告を理由とする解雇は禁止されています。

(労基法104条公益通報者保護法)

特に理由もないけれども、自分と価値観が異なるから、解雇した。

➜就業規則に基づかない解雇は無効とされています。(労契法16条)

この5つに当てはまるような解雇を行った場合、その解雇は無効となる可能性が高くなります。

解雇が有効であった事例

次に、事例を基にポイントを解説させていただきます。

事例1

従業員25名程度の小規模会社であるY会社が、再三にわたる注意、警告にもかかわらず、

「協調性を欠く言動や態度を改めなかったこと」等を理由として、モンスター社員を

普通解雇とした事例

第1審→解雇無効、第2審→解雇有効

  • モンスター社員の言動

「期日までに完納できなかったらどうするのか。どう責任取るのか」

「仕事のやり方が遅い」

けんか腰の声を聴くと動悸がする持病を持った従業員に対して、突如怒鳴る

パートの職員に激怒し、無視(その後、左記パート従業員は退職)

出勤時、あいさつをしなかった 等といった勤務態度でした。

  • 会社の対応

約1年半、再三にわたり、言動等を改めるようにモンスター社員を注意したほか、話し合いの機会をもち、言動等が改まらない場合には辞めてもらうよう話し合いを設けました。

しかし、モンスター社員は、言動等を改めないどころか、職員を怒鳴るようになった。

  • 解雇事由

就業規則上の「協調性がなく、注意及び指導しても改善の見込みがない」

「会社の社員としての適格性がないと判断されるとき」

として普通解雇としました。

解雇が有効か無効かを判断するためには、2つの基準で考えています。

それは、「解雇事由該当性」と「解雇の相当性」です。

事例1の場合、なぜ解雇無効から有効になったのでしょうか?

①即日解雇としなかったこと

②配転や懲戒処分に代わるほど注意・警告をし続けてきたこと

③記録化していたこと

この3つがポイントとなります。

事例2

小中学生を対象とした有名校受験のための学習塾を経営するY会社が、講師として勤務するモンスター社員を成績不良等を理由として解雇した事案。

➜普通解雇 有効

  • モンスター社員

合計5回の生徒アンケートの結果、モンスター社員は最下位付近にいた

モンスター社員の後任の講師はすこぶるアンケート結果が良かった。

授業に対するクレームがたびたび発生していた。

  • 会社の対応

Y会社はモンスター社員に対して模擬授業や、授業研修を行い、改善点を何度も具体的に指摘していた。

  • 解雇理由

就業規則「勤務成績又は業務能率が著しく不良で、向上の見込みがなく、他の職務にも転換できない等、就業に適さない時」

「勤務状況が著しく不良で、改善の見込みがなく、社員としての職責を果たしえないとき」

⇒普通解雇とした。

解雇が無効とされた事例

 

事例1

Y会社が、IT業務推進部長であるモンスター社員に対して、取締役に対する暴言行為、業務命令拒否及び営業能力の欠如・業務運営の妨害を理由として懲戒解雇・普通解雇とした事案

  • モンスター社員

取締役に対して、「やる気か、こら!」などと暴言を吐いた。

業務命令として、「職務経歴書」の提出を求めたところ、拒否

営業活動や言動により複数の取引先からクレームを受けた

他者の交渉で、他者に不快にさせ、事業の進行に悪影響を与えた。

  • 会社の対応

①暴言行為

②職務経歴書の提出という業務命令に対する拒否行為

③営業能力の欠如・業務運営の妨害

⇒懲戒解雇とした(裁判中に、普通解雇も追加)。

  • 裁判所の判断

【懲戒解雇】

確かに、①の暴言行為、②の業務命令違反が認められる

➜しかし、懲戒解雇とするには重すぎる判断

【普通解雇】

会社に重大な損害が発生したとは認められない。

業務命令違反も、解雇までするほどのことではない。

ポイントとしては4つあります。

①暴言等による漠然とした不安感等では解雇とはできない。

②過度・過激な発言がなされた場合には録音等が必要。

③成績不良は総合的に判断される。

④業務命令違反行為は、命令違反により業務にどれだけ支障が来るのかで判断される。

解雇でトラブルにならないための7つのチェックポイント

 

最後となりますが、従業員を解雇する際にトラブルとならないためのポイントは大きく分けて以下の7つとなります。

 

①就業規則は作成されていますか?

②モンスター社員の行為は就業規則上の普通解雇事由若しくは懲戒解雇事由に該当しますか?

③モンスター社員に対して注意、警告、改善命令等の改善措置をしましたか。

④解雇事由該当性や改善措置につき、証拠は残っていますか?

⑤モンスター社員を解雇する場合の選択は?

⑥解雇するにあたって、適切に説明や弁明の機会を与えましたか?

⑦解雇の際、解雇予告手当、退職金を支払いましたか。

いかがでしたでしょうか。モンスター社員への対応や就業規則のチェック等について少しでも気になった方や、7つのチェックポイントに1つでも該当した方は、トラブルを未然に防ぎ、多大な時間と費用を少しでも減らすためには必ず弁護士にご相談いただくことをおすすめいたします。

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