契約書の基本

Ⅰ,契約書とは?

Q:契約にあたって,契約書は必ず必要となるのでしょうか?

A:日本法上,一部の契約(保証契約等)を除き,契約は口頭でも当事者の合意(一方当事者の申込みとそれに対する他方当事者の承諾)があれば,成立します。

Q:では,なぜ契約書が必要になるのでしょうか。

A:後にトラブルになった場合に,当事者でどのような合意を行ったのか,「立証」できるようにするためです。

裁判における立証責任

⇒契約に基づく権利を「主張する側」が,契約の成立及び主張内容が契約に基づくことを立証する責任を負います。

Ⅱ,契約の成立と立証(総論)

Q:では,契約書の存在は,契約の成立の立証との関係で,裁判所ではどのように扱われるのでしょうか?

A:(1)前記のとおり,契約の成立は,契約に基づいて権利を主張する側が立証する責
任を負います。

(2)しかしながら,裁判上は,当事者の署名押印がなされた契約書が存在すると,契約の成立が推定されます。

(3)契約書に,当事者の印章(社印等)と同一の印影が押されているということは…。

⇒通常,印鑑は他人に渡したり,預けたりするものではない。

つまり,印鑑の持ち主の意思に基づいて,契約書に判が押されたことが推定される。としています。

(4)民事訴訟法においても,本人の印影があるときは,当該文書は真正に成立したものと推定される。としています。(民事訴訟法224条4項)

(5)よって,上記(3)(4)によって,契約書に当事者の記名押印があるときは,契約が成立したものと推定されることになります。

上記からいえることは,確かに,契約の立証責任は,契約に基づいて権利を主張する側が負うが,当事者の署名(記名)押印がある契約書があると,事実上契約の不成立を主張する側が,本件契約書の推定を破らなければならない。ということです。(厳密には立証責任を負う訳ではないが,事実上立証責任を負うに等しい)。

Q:では,推定を破るにはどうすればよいのでしょうか。

Q:1段目の推定を破るには?

A:印鑑を盗まれた,勝手に使われたなど。

Q:2段目の推定を破るには?

A:判を押した後,契約書に勝手に文言を付け加えられた,白紙の契約書に判を押したのに,空欄部分が勝手に補充されていたなど。

Q:では,理論上破れるとしても,現実に認められることがあるのでしょうか?

A:個人間の取引や,法人個人間の契約においては,契約の不成立を認めた裁判例等はありますが,法人間の取引で契約の不成立を認めることは実務上極めて困難です。

法人間の取引で,印鑑が盗まれるという事は通常想定しがたいうえ,白紙の契約書に判を押すという事も経営的にみて通常考えられないためです。

Q:以上の点から,企業として契約書に判を押す時の注意点は?

(1)契約書の決済システムを必ず構築しておく。

社員に決裁委任するときの注意点は?

必ず決裁可能金額を定めて,それを社員に周知徹底する(文書のかたちで内部規則を定めておくことが望ましい)とともに,どこまで決裁できるか,必ず相手方に伝えることです。(メール等で,伝えた証拠を残す!)!

(2) 押印の際は,必ず双方割印を要求する。また,日付欄を空欄にしない。

(3) 注文書と請書で取引する際は?

やり取り自体は構わないが,基本契約書を当事者間で作成することが望ましい。どうしても注文書と請書で取引する場合には,ファックスやメールにより,注文書や請書が届いた日時を必ず確定させることです。

Q:見積書の存在は?

A:見積書はあくまで見積書。契約を推認させる事実にはなるが,決定的な証拠にはならないので,見積書を送付し,相手方から口頭で承諾があったとしても,きちんと契約書のやりとりはするべきです。

Ⅲ 契約書条項の注意点(各論)

基本的な考え方

⇒法人同士の契約書と,法人⇔個人間の契約書は別のものと考える必要があります。後記のとおり,個人相手の契約は,消費者契約法や,特定商取引法の適用可能性があります。

(1)契約条項の注意点(個人・法人共通)

ア 期間条項

1回の売買であれば,通常は期間を設けることはないが,賃貸借のような一定期間継続するような契約や,継続的な取引契約の場合には,契約の始期と終期を定める必要があります。

条項例:本契約の有効期間は,平成●年●月●日から〇年間とする。

(ア) 自動更新条項

ア記載のように定めると,契約期間の終期が到来すると,自動的に契約が終了になってしまいます。継続的な取引を行う場合は,自動更新条項をつける必要があります。

条項例:(上記アの条項例に続いて)ただし,期間満了日の●か月前までに,当事者から何ら意思表示がない時は,同じ条件でさらに●年間更新されるものとし,その後も同様とする。

(イ) 中途解約条項

契約期間が満了するまでは,債務不履行がない限り契約を終了させられないと,却って取引に躊躇してしまうことがあります。そこで,事前通知により,当事者の一方から解約ができるような条項を設置する(賃貸借契約のようなケースにおいては,賃貸人側としては違約金条項を設置することも有用です)。

条項例:甲又は乙は,本契約の有効期間中であっても相手方に対して●か月前までに書面をもって事前に通知することにより,本契約を解約することができる。

条項例:(上記(イ)の条項に続いて)ただし,●から解約する場合は,残存期間の賃料相当額を違約金として○に支払う。

イ 期限の利益喪失条項)

Q:相手方が契約違反をした場合に,直ちに代金等の期限を到来させ,支払わせる旨の文言です。なぜ,このような条項が必要なのでしょうか?

A:民法上の期限の喪失は,破産や担保毀損,担保の不提供など,一定の事由に限られているためです。

ウ (任意)解除条項

Q:法律上解除の条文があるのに,なぜ必要なのでしょうか?

A:法律上の解除の場合,①履行の催告をした上,②相当期間経過後に解除通知を行う必要があります。

もっとも,取引によっては,このような手続を経ることなく無催告で解除すべき場合があるためです。

エ 暴力団排除条項

現在,ほぼ全ての都道府県において,暴力団排除条例が制定されていることや,暴力団との取引が企業の信用性に大きくかかわる時勢からしても,必須の条項といえます

オ 不可抗力条項

法律上条文があるものの,不可抗力とは具体的にどのような事情があたるのか,不可抗力の場合,どのような効果が生じるのかについては,不明確。また,不可抗力の内容によっては,一定期間履行を猶予すれば足り,必ずしも解除する必要がない場合もあります。そうすると,不可抗力に該当するケースや,効果を当事者間で定めておくことが望ましいです。

カ 個人情報保護条項

近年,企業の情報漏えいが社会問題化しており,契約締結にあたっては,個人情報に関する条項を挿入することが望ましいです。特に,個人情報を電子データ等により,第三者に委託する際は,個人情報保護法上,「必要かつ適切な監督」をしなければなりません。

キ 譲渡禁止条項

企業間,個人にかかわらず,債権譲渡や債権を担保にして借入れ等を行うことを禁止しなければ,二重払いの危険や,適切な取引が行えなくなる可能性があります。

ク 管轄条項

基本的には,自社に有利な裁判所(出頭の容易性や,簡易裁判所,地方裁判所のどちらがよいかなど)を管轄にすることが望ましいが,契約当事者のパワーバランスによるところが大きい。

Q:弁護士に依頼するから,どの裁判所でもよいのでしょうか?

A:弁護士に依頼するとしても,遠い裁判所であればその分出張費がかかり,コストが増大することになります。また,費用倒れ案件等場合によっては自社で対応せざるを得なくなることもあります。

Q:大企業相手の場合は,相手に従うしかないでしょうか?

A:管轄においては必ずしもそうとは限りません。大企業の場合,登記された支店が各所に存在し,支店ベースで訴訟追行も可能です。近場に支店があることを材料に,自社に近い裁判所を管轄とするよう交渉することも十分可能です。

(2)契約条項の注意点(個人との契約)

Q:個人との契約で注意すべき最も大きなポイントは?

A:消費者契約法,特定商取引法の適用の有無です。

ここでは,特に問題となる訪問販売における特定商取引法における契約の解約(いわゆるクーリングオフ)について解説します。

Q:クーリングオフ制度が適用されるのは?

A:特定商取引法2条によれば,訪問販売,通信販売,電話勧誘販売に適用される。
としています。

Q:では,訪問販売とは何でしょうか?

A:①販売業者又は役務の提供の事業を営む者(以下,「役務提供事業者」という。)が営業所,代理店その他主務省令で定める場所(以下,「営業所等」という。)以外の場所において,売買契約の申込みを受け,若しくは売買契約を締結して行う商品若しくは特定権利の販売又は役務を有償で提供する契約(以下,「役務提供契約」という。)の申し込みを受け,若しくは役務提供契約を締結して行う役務の提供(特定商取引法2条1項1号)

②販売業者又は役務提供事業者が,営業所等において,営業所以外の場所において呼び止めて営業所等に同行させた者その他政令で定める方法により誘引した者(以下「特定顧客」という。)から売買契約の申し込みを受け,若しくは特定顧客と売買契約を締結して行う商品若しくは特定権利の販売又は特定顧客から役務提供契約の申し込みを受け,若しくは特定顧客と役務提供契約を締結して行う役務の提供(特定商取引法2条1項2号)

上記表現は難しい表現ですが,簡単には以下のとおりです。

『(何ら訪問等せずに)顧客が自ら店頭に足を運び契約をした場合や,顧客から契約したい旨連絡を受けて,顧客の自宅で契約を締結する場合は,訪問販売にあたらないが訪問先でそのまま契約する一般的なイメージとしての訪問販売のみならず,顧客等を訪問して,契約の意思を生じさせ,後日店頭で契約する場合も訪問販売に該当する』

⇒訪問販売の概念は極めて広いといえます。

Q:訪問販売かどうか微妙なケースは?

A:法令だけでなく,省庁のガイドラインの閲覧等,緻密な検討が必要です。微妙な事案であれば,基本的には特定商取引法の適用があると考えて,次に述べるクーリングオフの手続を行った方がよいと考えらます。

Q:クーリングオフの手続とは?

A:以下の要件を満たした書面を顧客に提示し,説明しなければならないとされています。赤字,赤枠で書面を囲み,文字の大きさは8ポイント以上でなければならない

Q:要件を満たさないとどうなる?

A:クーリングオフの期限(8日間)が進みません。結果,企業側としては,いつクーリングオフされてもおかしくない状況に立たされることになります。

(3)契約条項の注意点(法人同士)

代表的なものとして,製品の売買契約,請負契約を挙げます。

ア 製品の受取時に生じる問題

商品の検収,引渡しと危険負担

Q:商品の検収について,法律上は?

A:目的物の引渡しを受けた後,遅滞なく検査義務,数量不足等の通知義務があります(商法526条)

Q:通知義務を怠ると?

A:損害賠償請求や解除が認められなくなります。

当事者間で具体的な検査の方法や,通知義務の履行を納品後何時まで行うか,定めることが望ましく,契約書に記載するか,若しくは別に協議によって決めます。ただし,協議によって決める場合は,その旨契約書に記載し,協議が契約の一部であることを明示する必要があります。

引渡しと危険負担

引渡し…取引する商品によって,また当事者の都合によって異なりますが,引渡しがどの時点かは契約書において明示しておく方が,危険負担との関係では都合がよいといえます。

Q:危険負担とは?

A:当事者の責によらない事由により,売買の目的物が滅失ないし損傷した場合に,代金支払義務は消滅するかどうかという問題です。

Q:民法上の原則は?

A:目的物が滅失してしまっても,買主は依然として代金支払義務を負います。(債権者主義といいます)。そこで,契約書において,債権者主義を排除する規定を盛り込む必要があります。

Q:では,どの段階で危険が移転するべき?

A:買主の支配圏下に商品が置かれたとき=引渡し時に危険が移転すると考えるのが一般的です。

イ 製品の受取後に生じる問題

瑕疵担保責任,製造物責任

瑕疵担保責任

Q:商法上の規定は?

A:検査時に発見できない瑕疵がある場合,製品の受領後6ヶ月以内に瑕疵を発見し ,直ちに通知をしなければ,救済を受けられません。(商法526条2項)。

Q:買主側としては?

A:6ヶ月の期間を1年に延ばす規定や,損害賠償の行使を妨げない旨の規定を設置する必要があります。

Q:売主側としては?

A:6ヶ月以内に発見されたものに限定し,かつ損害賠償の行使方法を制限する必要があります

製造物責任

Q:製造物責任とは?

A:「製品」(動産のみ)が通常有すべき安全性を欠いており,かかる欠陥によって第三者の生命,身体,財産に損害を及ぼした場合(いわゆる拡大損害)に製造者が責任を負うことです(製造物責任法)。

Q:製造者とは?

A:分かりやすく言えば,製品を製造したか,海外で製造した場合は製品を輸入した者のことをいいます。

Q:販売者は?

A:原則として製造者にあたらないが,消費者が製造元であると誤認したり,製造者に指示して製品を造らせた場合等,実質的に製造者といえる場合も製造者にあたるので注意が必要です。

Q:買主としては?

A:第三者からの製造物責任に備えて,売主の求償権を確保する旨条文を入れたいところです。また,被害者に支払う賠償金のみならず,商品の回収費用等も求償の対象として規定に盛り込みたいところです。

Q:売主としては?

A:直接損害に限る旨条文を置いたり,賠償額の上限を定めたりすることが考えられます。

ウ その他

再委託や知的財産権についての規定

Q:再委託とは?

A:製品の製造や,請負工事等は,契約当事者でない者がかかわることが当然に予想されます。再委託自体は通常行われるとしても,下請けや部品製造会社の行為に起因する瑕疵やトラブルについて,責任の所在を明らかにする必要があります。

原則的には,2つのパターンに分けられます。

(1)再委託を許すかどうか

製品の構造上,当然下請けや部品製造会社の存在が予定される場合

⇒再委託を許可する。

(2)再委託を予定しない契約の場合

⇒事前に買主の同意を要求する。

(3)責任の所在は?

⇒上記いずれの場合であっても,買主との関係では,売主が全責任を負う旨規定する。

エ 知的財産権の侵害について

売主が知的財産権侵害をした場合に,買主に賠償する規定の存在は当然のことといえ
ます。

Q:さらに必要な規定はあるのでしょうか?

A:万一買主が訴えられた場合に,売主に訴訟等の協力を仰ぐ旨の規定を入れることが望ましい。争点が法律ではなく理系分野に及ぶことも多く,製造元の見解や知識が必要不可欠となります

 

Ⅳ 民法債権法の改正について

Q:いつから施行?

A:2020年4月1日からの予定です。

Q:契約書との関係で注意すべき点は?

A:大部分は既存の判例等の明確化です。ここでは代表的なもののみ列挙します。

(1)瑕疵担保責任規定の改正(改正民法562条~564条)

目的物に瑕疵があるかどうかではなく,目的物が契約に適合するかどうかによって責任の有無を判断。言い換えれば,契約の目的規定や仕様書等によって,どのような商品やサービスであれば契約に適合するのかを詳細に明記する必要があります。

(2)危険負担に関する条文の改正

前記債権者主義の削除,危険の移転について引き渡しを要求。(改正民法567条1項)。

(3)保証契約についての改正

①主債務者の保証人に対する資力等の情報提供義務を負わせることになります。(改正民法465条の10第1項)

事業の為の債務を個人に委託保証する場合に適用。契約に情報提供をしたことの確認条項を入れる必要性があります。

②不履行の有無等の情報提供義務(改正民法458条の2)

保証人から請求があった場合には,債権者は主債務者の不履行の有無等を保証人に情報提供する義務を負うことになります。

③主債務者が期限の利益を喪失した場合の通知義務(改正民法458条の3第1項)

個人が保証人の場合に適用され,2か月以内に通知しないと,期限の利益喪失後の遅延損害金を請求できなくなります。代表取締役が会社の債務を個人保証するような場合は注意が必要です。

Ⅴ まとめ

①契約書に署名押印するに際し,きちんと内部決裁システムを構築する。特に企業同士の取引の場合,判を押して契約無効はほとんど認められない。

②個人との契約の場合は,特にクーリングオフに注意する。

③法人との契約の場合,起こり得るトラブルの責任所在を明確にする。

④民法の改正に注意する。

契約書の作成については,がインターネットで取り寄せたひな形をそのまま流用している企業様が多く見受けられます。実際に定型の書式を使用して取引先とトラブルになってしまった事例もあります。トラブルを未然に防ぐためにも,新たに契約書を作成される際や改めて作成しなおす際は,一度弁護士に相談されることをお勧めいたします。

 

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