同一価値労働同一賃金
ハマキョウレックス事件(平成30年6月1日)についてはこちら
第1 はじめに
1 同一労働同一賃金とは?
→「同一の価値があるとみなされる労働には同じ賃金が支払われるべき」という考え方です。
等しき者は等しく(均等待遇),異なる者にも処遇ごとのバランスを考え(均衡待遇),正規雇用労働者と非正規雇用労働者(パートタイム労働者,派遣労働者)間の不合理な待遇差の解消を目指すものです。
2 日本郵便(東京)事件(東京地判平成29年9月14日)
労働契約法20条の判断において,職務内容は判断要素の1つにすぎないことからすると,同条は,同一労働同一賃金の考え方を採用したものではなく,同一の職務内容であっても賃金をより低く設定することが不合理とされない場合があることを前提としており,有期契約労働者と無期契約労働者との間で一定の賃金制度上の違いがあることも許容するものと解される。
第2 労働契約法20条
1 有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が,期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては,当該労働条件の相違は,労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。),当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して,不合理と認められるものであってはならない。とされています。
2 では,不合理性の判断要素はどのようにして判断するのでしょうか。
①職務の内容
②職務の内容及び配置の変更の範囲
③その他の事情
であるとされています。
3 裁判において,不合理性(規範的要件)を主張する際は,どのようなことを主張・立証すればいいでしょうか。
労働者側は,不合理であることを基礎づける事実(評価根拠事実)
使用者側は,不合理でないことを基礎づける事実(評価障害事実)
を主張・立証する必要があります。
4 労働契約法20条違反が争点となった最高裁判決として,
があります。経営者の方や士業者の方はおそらく聞いたことがある事件かと思います。以下,解説いたします。
第3 ハマキョウレックス事件
1 事案の概要
期間の定めのある労働契約(有期労働契約)を締結して被告(一般貨物自動車運送事業を目的とする会社。平成25年3月31日現在の従業員数は4597人。)において勤務している原告(平成20年10月6日頃,被告との間で有期労働契約を締結し,トラック運転手として配送業務に従事。)が,期間の定めのない労働契約(無期労働契約)を被告と締結している正社員と原告との間で,無事故手当,作業手当,給食手当,住宅手当,皆勤手当,通勤手当,家族手当,賞与,定期昇給及び退職金に相違があることは,労働契約法20条に違反している等と主張して,被告に対し次のような請求をした事案です。
2 原告の請求
⑴労働契約に基づき,原告が被告に対し,本件賃金等に関し,正社員と同一の権利を有する地位にあることの確認を求める(確認請求)
⑵①主位的に,労働契約に基づき,平成21年10月1日から同27年11月30日までの間に正社員に支給された無事故手当,作業手当,給食手当,住宅手当,皆勤手当及び通勤手当と,同期間に原告に支給された上記諸手当との差額の支払を求める(差額賃金請求)。
②予備的に,不法行為に基づき,上記差額に相当する額の損害賠償を求める(損害賠償請求)。
3 賃金等に関する比較
正社員 | 契約社員 | |
基本給 | 月給制 | 時給制 |
無事故手当 | 該当者には1万円 | 支給なし |
作業手当 | 該当者には1万円 | 支給なし |
給食手当 | 3500円 | 支給なし |
住宅手当 | 2万円 | 支給なし |
皆勤手当 | 該当者には1万円 | 支給なし |
家族手当 | あり | 支給なし |
通勤手当 | 通勤距離に応じて支給
(市内居住者は5000円) |
3000円 |
定期昇給 | 原則あり | 原則なし |
賞与 | 原則支給あり | 原則支給なし |
退職金 | 原則支給あり | 原則支給なし |
4 争点
本件有期労働契約に基づく原告の労働条件は,公序良俗又は労働契約法20条に反して無効であるか。という点です。
5 原告の主張
⑴ 本件有期労働契約と被告の正社員との労働契約との間において,①労働時間について相違はなく,②配車担当者の指示に基づいて配送業務を行うという点で業務内容も同一で,かつ配送業務の地域も異ならないし,③配送業務を行う者の間に配転の有無や責任についての相違もない。それにもかかわらず,無事故手当,作業手当,給食手当,住宅手当,皆勤手当及び通勤手当を正社員のみに支給するという,本件有期労働契約における労働条件と被告会社の正社員との労働条件の相違は,その職務内容(業務内容や業務に伴う責任の程度)や職務内容・配置の変更の範囲等の事情を考慮しても不合理というべきであり,かかる不合理な相違のある本件有期労働契約上の労働条件は,公序良俗に反し,また,労働契約法20条によっても無効というべきである。
⑵ そうすると,原告は,被告会社の正社員と同一の権利を有する地位にある(無効とされた本件有期労働契約上の労働条件が,原告の正社員の労働条件によって自動的に代替されることになる。)というべきであるし,原告は,本件有期労働契約に基づいて,賃金及び諸手当の差額を被告会社に請求することができるというべきである。
6 被告会社の主張
⑴ 本件有期労働契約における労働条件と被告会社の正社員との労働条件の相違は,「期間の定めがあることにより」生じているものではないというべきであるし,労働契約法20条にいう「不合理と認められるもの」とは,「法的に否認すべき程度に不公正に近いもの」を意味すると解すべきところ,本件有期労働契約における労働条件と被告会社の正社員との労働条件の相違は,その職務内容(業務内容や業務に伴う責任の程度)や職務内容・配置の変更の範囲等の事情を考慮しても不合理であるとはいえない。
⑵ 仮に,上記諸手当の支給不支給という本件有期労働契約における原告の労働条件と被告会社の正社員との労働条件の相違が労働契約法20条に違反し,無効であるとしても,その違反の事実から,直ちに,無効とされた労働条件が,被告会社の正社員の労働条件によって自動的に代替されることになるとの法的根拠は乏しいというべきである。
7 差戻後第一審
⑴ 通勤手当のみ認容。
⑵ ・労働契約20条における「不合理と認められるもの」とは,有期契約労働者と無期契約労働者間の当該労働条件上の相違が,それら労働者間の職務内容や職務内容・配置の変更の範囲の異同にその他の事情を加えて考察して,当該企業の経営・人事制度上の施策として不合理なものと評価せざるを得ないものを意味すると解すべき。
・被告会社における労働者間の職務内容や職務内容・配置の変更の範囲の異同等を考察すれば,少なくとも無事故手当,作業手当,給食手当,住宅手当,皆勤手当及び家族手当,一時金の支給,定期昇給並びに退職金の支給に関する正社員と契約社員との労働契約条件の相違は,被告会社の経営・人事制度上の施策として不合理なものとはいえない。
・もっとも,被告会社において,通勤手当が交通費の実費の補填であることからすると,通勤手当に関し,正社員が5万円を限度として通勤距離に応じて支給される(2km以内は一律5000円)のに対し,契約社員には3000円を限度でしか支給されないとの労働条件の相違は,労働契約法20条の「不合理と認められるもの」に当たる。
・特別の定めもないのに,無効とされた労働契約の条件が無期契約労働者の労働条件によって自動的に代替されることになるとの効果を労働契約法20条の解釈によって導くことは困難というべきであるから,労働契約の条件が同条に違反する場合については,別途会社が不法行為責任を負う場合があるにとどまる。
8 差戻後控訴審
⑴ 通勤手当以外にも,無事故手当,作業手当,給食手当について認容。
⑵ ・労働契約法20条の不合理性の判断は,有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違について,職務の内容,当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して,個々の労働条件ごとに判断されるべきものである。
・同条の不合理性の主張立証責任については,「不合理と認められるもの」との文言上,規範的要件であることが明らかであるから,有期労働契約者は,相違のある個々の労働条件ごとに,当該労働条件が期間の定めを理由とする不合理なものであることを基礎付ける具体的事実(評価根拠事実)についての主張立証責任を負い,使用者は,当該労働条件が期間の定めを理由とする不合理なものであるとの評価を妨げる具体的事実(評価障害事実)についての主張立証責任を負う。
・無事故手当は,乗務員が1か月間無事故で勤務したときに限り,無事故手当として1万円が支給されるものであり,優良ドライバーの育成や安全な輸送による顧客の信頼の獲得を目的とするもの。→×
・特殊作業手当は,特殊業務に携わる従業員に対して月額1万円から2万円の範囲内で支給される。→×
・食事手当は,従業員の給食の補助として月額3500円を支給するとされている。→×
・正社員は,転居を伴う配転が予定されており,配転が予定されない契約社員と比べて,住宅コストの増大(たとえば,転勤に備えて住宅の購入を控え,賃貸住宅に住み続けることによる経済的負担等)が見込まれる。また,長期雇用関係を前提とした配置転換のある正社員への住宅費用の援助及び福利厚生を手厚くすることによって,有能な人材の獲得・定着を図るという目的がある。→◯
・皆勤手当は,精勤に対してインセンティブを付与することで精勤を奨励するもの。→◯(本件においては,別途考慮されている事項があるため。)
9 上告審
⑴ ①契約社員である原告と正社員との間で本件賃金等に相違があることが労働契約法20条に違反するとしても,被上告人の労働条件が正社員と同一になるものではないから,本件確認請求及び本件差額賃金請求は,いずれも理由がない。
②原告と正社員との間の住宅手当に係る相違は不合理と認められるものには当たらないから,当該相違があることは労働契約法20条に違反しない。
③皆勤手当に関する判断は破棄差し戻し。
⑵ ◎労働契約法20条は,有期契約労働者と無期契約労働者との間で労働条件に相違があり得ることを前提に,職務の内容,当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して,その相違が不合理と認められるものであってはならないとするものであり,職務の内容等の違いに応じた均衡のとれた処遇を求める規定であると解される。
◎有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が同条に違反する場合であっても,同条の効力により当該有期契約労働者の労働条件が比較の対象である無期契約労働者の労働条件と同一のものとなるものではないと解するのが相当である。
◎労働契約法20条にいう「期間の定めがあることにより」とは,有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が期間の定めの有無に関連して生じたものであることをいうものと解するのが相当である。
◎両者の労働条件が均衡のとれたものであるか否かの判断に当たっては,労使間の交渉や使用者の経営判断を尊重すべき面があることも否定しがたい。
◎労働契約法20条にいう「不合理と認められるもの」とは,有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理であると評価することができるものであることをいうと解するのが相当である。
◎両者の労働条件の相違が不合理であるか否かの判断は規範的評価を伴うものであるから,当該相違が不合理であるとの評価を基礎付ける事実については当該相違が同条に違反することを主張する者が,当該相違が不合理であるとの評価を妨げる事実については当該相違が同条に違反することを争う者が,それぞれ主張立証責任を負うものと解される。
・皆勤手当は,被告会社が運送業務を円滑に進めるには実際に出勤するトラック運転手を一定数確保する必要があることから,皆勤を奨励する趣旨で支給されるもの。→×
10 労働契約法20条違反に関する比較
差戻後第一審 | 差戻後控訴審 | 上告審 | |
基本給 | ◯ | ◯ | ◯ |
無事故手当 | ◯ | ☓ | ☓ |
作業手当 | ◯ | ☓ | ☓ |
給食手当 | ◯ | ☓ | ☓ |
住宅手当 | ◯ | ◯ | ◯ |
皆勤手当 | ◯ | ◯ | ☓(破棄差戻) |
家族手当 | ◯ | ◯ | ◯ |
通勤手当 | ☓ | ☓ | ☓ |
定期昇給 | ◯ | ◯ | ◯ |
賞与 | ◯ | ◯ | ◯ |
退職金 | ◯ | ◯ | ◯ |
(○=違反とされなかったもの,×=違反とされたもの)
第3 長澤運輸事件
1 事案の概要
被告会社(セメント,液化ガス,食品等の輸送事業を営む株式会社。平成27年9月1日現在の従業員数は66人。)を定年退職した後に,期間の定めのある労働契約(有期労働契約)を被告会社と締結して就労している原告(バラセメントタンク車の乗務員として勤務。)が,期間の定めのない労働契約(無期労働契約)を被告会社と締結している従業員との間に,労働契約法20条に違反する労働条件の相違があると主張して,被告会社に対し,次のような請求をした事案。
2 原告の請求
⑴①主位的に,従業員に関する就業規則等が適用される労働契約上の地位にあることの確認を求める(確認請求)。
②労働契約に基づき,就業規則等により支給されるべき賃金と実際に支給された賃金との差額及びこれに対する遅延損害金の支払を求める(差額賃金請求)。
⑵予備的に,不法行為に基づき,上記差額に相当する額の損害賠償金及びこれに対する遅延損害金の支払を求める(損害賠償請求)。
3 賃金等に関する比較
正社員 | 嘱託社員 | |
基本給 | 月給 | 12万5000円
(歩合給あり) |
能率給 | あり | なし |
職務給 | あり | なし |
精勤手当 | 該当者には5000円 | なし |
無事故手当 | 該当者には5000円 | 該当者には5000円 |
住宅手当 | 1万円 | なし |
家族手当 | あり | なし |
役付手当 | あり | なし |
超勤手当 | あり | 割増賃金の支給 |
通勤手当 | 限度額4万円 | 限度額4万円 |
賞与 | あり | なし |
退職金 | あり | なし |
調整給 | なし | 2万円
(老齢厚生年金の報酬比例部分の支給が開始されるまで) |
4 争点
①労働契約法20条違反の有無
②労働契約法20条違反が認められる場合における原告の労働契約上の地位(主位的請求関係)
③不法行為の成否及び損害の金額(予備的請求関係)
5 第一審
⑴ 主位的請求(5の②)を認容。
⑵ ・労働契約法20条の「期間の定めがあることにより」という文言は,ある有期契約労働者の労働条件がある無期契約労働者の労働条件と相違するというだけで,当然に同条の規定が適用されることにはならず,当該有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違が,期間の定めの有無に関連して生じたものであることを要するという趣旨であると解するのが相当であるが,他方において,このことを超えて,同条の適用範囲について,使用者が期間の定めの有無を理由として労働条件の相違を設けた場合に限定して解すべき根拠は乏しい。→本件にも,労働契約法20条が適用される。
・労働契約法20条は,有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違が不合理なものと認められるか否かの考慮要素として,①職務の内容,②当該職務の内容及び配置の変更の範囲のほか,③その他の事情を掲げており,その他の事情として考慮すべき事情について特段の制限を設けていないから,上記労働条件の相違が不合理であるか否かについては,一切の事情を総合的に考慮して判断すべきものと解されるが,同条が考慮要素として上記①及び②を明示していることに照らせば,同条がこれらを特に重要な考慮要素と位置づけていることもまた明らかである。
・有期契約労働者の職務の内容(上記①)並びに当該職務の内容及び配置の変更の範囲(上記②)が無期契約労働者と同一であるにもかかわらず,労働者にとって重要な労働条件である賃金の額について,有期契約労働者と無期契約労働者との間に相違を設けることは,その相違の程度にかかわらず,これを正当と解すべき特段の事情のない限り,不合理であるとの評価を免れない。→本件において特段の事情はない。
・被告会社の正社員就業規則が原則として全従業員に適用されるものとされており,嘱託者についてはその一部を適用しないことがあるというにとどまることからすれば,嘱託社員の労働条件のうち賃金の定めに関する部分が無効である場合には,正社員就業規則の規定が原則として全従業員に適用される旨の同規則3条本文の定めに従い,嘱託社員の労働条件のうち無効である賃金の定めに関する部分については,これに対応する正社員就業規則その他の規定が適用にされることになるものと解するのが相当である。
6 控訴審
⑴ 全部棄却。
⑵ ・労働契約法20条は,有期契約労働者と無期契約労働者の間の労働条件の相違が不合理と認められるか否かの考慮要素として,①職務の内容,②当該職務の内容及び配置の変更の範囲のほか,③その他の事情を掲げており,その他の事情として考慮すべきことについて,上記①及び②を例示するほかに特段の制限を設けていないから,労働条件の相違が不合理であるか否かについては,上記①及び②に関連する諸事情を幅広く総合的に考慮して判断すべきものと解される。
7 上告審
⑴ ①精勤手当及び超勤手当(時間外手当)を除く本件各賃金項目に係る労働条件の相違が労働契約法20条に違反しないとした部分は結論において是認することができる。
②上記各手当に係る労働条件の相違が同条に違反しないとした部分は是認することができない。
→精勤手当については破棄自判。
超勤手当については破棄差戻。
⑵ ◎労働者の賃金に関する労働条件は,労働者の職務内容及び変更範囲により一義的に定まるものではなく,使用者は,雇用及び人事に関する経営判断の観点から,労働者の職務内容及び変更範囲にとどまらない様々な事情を考慮して,労働者の賃金に関する労働条件を検討するものということができる。また,労働者の賃金に関する労働条件の在り方については,基本的には,団体交渉等による労使自治に委ねられるべき部分が大きいということもできる。そして,労働契約法20条は,有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断する際に考慮する事情として,「その他の事情」を挙げているところ,その内容を職務内容及び変更範囲に関連する事情に限定すべき理由は見当たらない。
◎有期契約労働者が定年退職後に再雇用された者であることは,当該有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かの判断において,労働契約法20条にいう「その他の事情」として考慮されることとなる事情に当たると解するのが相当である。
◎有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては,両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく,当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当である。
・本件における事情を総合考慮すると,嘱託乗務員と正社員との職務内容及び変更範囲が同一であるといった事情を踏まえても,正社員に対して能率給及び職務給を支給する一方で,嘱託乗務員に対して能率給及び職務給を支給せずに歩合給を支給するという労働条件の相違は,不合理であると評価することができるものとはいえない。→◯
・被告会社における精勤手当は,その支給要件及び内容に照らせば,従業員に対して休日以外は一日も欠かさずに出勤することを奨励する趣旨で支給されるもの。→×
・被告会社における住宅手当及び家族手当は,その支給要件及び内容に照らせば,前者は従業員の住宅費の負担に対する補助として,後者は従業員の家族を扶養するための生活費に対する補助として,それぞれ支給されるもの。→◯
・被告会社における役付手当は,その支給要件及び内容に照らせば,正社員の中から指定された役付者であることに対して支給されるもの。→◯
・正社員の超勤手当及び嘱託乗務員の時間外手当は,いずれも従業員の時間外労働等に対して労働基準法所定の割増賃金を支払う趣旨で支給されるもの。→×
・賞与は,月例賃金とは別に支給される一時金であり,労務の対価の後払い,功労報償,生活費の補助,労働者の意欲向上等といった多様な趣旨を含み得るもの。→◯
8 労働契約法20条違反に関する比較
第一審 | 控訴審 | 上告審 | |
基本給 | ☓ | ◯ | ◯ |
能率給 | ☓ | ◯ | ◯ |
職務給 | ☓ | ◯ | ◯ |
精勤手当 | ☓ | ◯ | ☓ |
住宅手当 | ☓ | ◯ | ◯ |
家族手当 | ☓ | ◯ | ◯ |
役付手当 | ☓ | ◯ | ◯ |
超勤手当 | ☓ | ◯ | ☓(破棄差戻) |
賞与 | ☓ | ◯ | ◯ |
(○=違反とされなかったもの,×=違反とされたもの)
第4 2つの最高裁判決を踏まえて
1 2つの最高裁判決の比較
ハマキョウレックス事件 | 長澤運輸事件 | |
基本給 | ◯ | ◯ |
無事故手当 | ☓ | 当初から同一条件 |
作業手当 | ☓ | |
給食手当 | ☓ | |
住宅手当 | ◯ | ◯ |
皆勤手当 | ☓(破棄差戻) | ☓ |
家族手当 | ◯ | ◯ |
通勤手当 | ☓ | 当初から同一条件 |
定期昇給 | ◯ | |
賞与 | ◯ | ◯ |
退職金 | ◯ | |
役付手当 | ◯ | |
超勤手当 | ☓(破棄差戻) |
(○=違反とされなかったもの,×=違反とされたもの)
2 2つの最高裁判決から導かれる4つの規範
長澤運輸事件最高裁判決において,ハマキョウレックス事件最高裁判決の判旨が4ヶ所参照されています。
①労働契約法20条の趣旨は「均衡待遇」であるとしています。
②同条「期間の定めがあることにより」の定義
③同条「不合理と認められるもの」の定義
④同条の効力
→同条に違反した場合においても,無期契約労働者の労働条件と同一にならない。としました。
3 今後の課題
ハマキョウレックス事件及び長澤運輸事件で積み残された課題として,比較対象者の問題があります。
メトロコーマス事件(東京地裁判決:平成29年3月23日)
→非正規社員と同じ売店業務に従事している正社員と比較するのではなく,正社員全般との間の職務内容・責任等と比較し,大きな相違を認め,均衡待遇違反の成立を否定しました。
第5 おわりに
1 同一労働同一賃金関連法が施行されます。
時期としては,
大企業 :2020年4月~
中小企業:2021年4月~ となっています。
具体的にはどのような内容になっているのか,下記説明していきます。
2 説明責任の強化
⑴ 改正パート・有期雇用法14条2項
事業主は,パート労働者・有期社員から求めがあれば,比較対象となる正規雇用労働者の待遇差の内容やその理由等に関する説明する義務を負います。
⑵ 改正パート・有期雇用法14条1項
事業主は,パート労働者・有期社員を雇い入れる際に,労働者に適用される待遇の内容等を説明する義務を負います。
3 同一労働同一賃金関連法施行までの準備としては,
①パート・有期社員と正社員の職務内容・責任,人材活用の仕組み・運用の見える化
②職務内容が同一である場合,職務関連手当の相違性と理由の見える化
③人材活用の仕組み・運用が同一である場合,住宅手当等の相違性と理由の見える化
④説明責任の対応準備(相違性とその理由等)
⑤改正パート・有期雇用法に基づく相談体制等の整備
が,主に挙げられています。
同一価値労働同一賃金に関しては,厚生労働省が専門のホームページを立ち上げておりますので,そちらを参照頂いてもよろしいかと思います。
第6 参考文献
・北岡大介『「同一労働同一賃金」はやわかり』日本経済新聞出版社,2018年7月24日
・水町勇一郎『「同一労働同一賃金」のすべて』株式会社有斐閣,2018年2月25日
いかがでしたでしょうか。今回のテーマもさることながら,最近は「働き方改革」に伴い,社内体制の見直しの一環として就業規則のチェックや,残業について何か対策を施すことはできないか等のお問い合わせを多くいただいております。もし,気になる点や,「こういった場合はどうなるのか」といった疑問をお持ちの方は,一度でも専門家である弁護士に相談されることをおすすめいたします。
労働問題の関連記事
下記のページも合わせてご高覧頂けましたら幸いでございます。
0120-747-783メディア掲載・セミナー実績
- 2019.02.15
- 社会保険労務士様向け勉強会「ハラスメント対応」
- 2018.12.12
- 社会保険労務士様向け勉強会「解雇・雇止め」
- 2018.10.23
- 経営者様向けセミナー「残業代請求対策徹底解説セミナー」
- 2018.09.06
- 社会保険労務士向け労働問題勉強会「同一労働同一賃金」
- 2018.07.12
- 経営者様向けセミナー「契約書の基本徹底解説」
新着情報
- 2020.03.31
- 新型コロナウィルス感染症等への弊所の対応について
- 2019.03.22
- 【ご案内】神奈川県内の経営者向け勉強会「残業代請求対策」
- 2019.01.28
- ニュースレター1月号を発行いたしました
- 2018.11.30
- 【ご案内】社会保険労務士様向けセミナー「解雇・雇止め」
- 2018.10.23
- ニュースレター10月号を発行いたしました