メンタルヘルス問題の法的対応実務を弁護士が解説!

なぜ、メンタルヘルスが注目され、法的にも大きな問題となったのでしょうか?

 

これは,現代社会や職場でストレスが溜まり、心が不健康な状態に陥る可能性が高まってきたからといわれています。これは,年々深刻化しており、労働安全衛生法が一部改正され、労働者のストレスチェックを義務化する事態にもなっています。

 

Ⅰ,メンタルヘルスに関連する状況

①厚生労働省の労働者健康状況調査

(平成24年)

「現在の仕事や職業生活に関することで強い不安、悩み、ストレスとなっていると感じる事柄がある」とする労働者の割合

⇒60.9%(平成19年調査58%)

 

「過去1年間にメンタルヘルスの不調により連続1カ月以上休業又は退職した労働者がいる」とする事業者の割合 

⇒8.1%(平成23年調査9.0%)。

 

②仕事によるストレスからうつ病などの精神障害に罹患したとして労災請求する件数

「精神障害等の労災補償状況」(厚生労働省のまとめ)

請求件数

2001年度 平成13年度  265件

2006年度 平成18年度  819件

2011年度 平成23年度 1272件

 

③では,従業員が業務上メンタルヘルスに不調をきたした場合,法的なリスクとしてどのような問題があるのでしょうか。

 

(1)「労災補償の請求」

(2)「使用者に対する安全配慮義務違反または不法行為に基づいて損害賠償請求の可能性」

※業務上の疾病であるとされる場合には、休職期間及びその後30日間は解雇禁止

 

cf:うつ病などの精神的障害が業務によって生じたものとして労災請求した事案

平成10年度には、42件請求のうち、認定4件

平成23年度には、1272件請求のうち、認定325件

⇒年々増加傾向であることがうかがえます。

(3)メンタルヘルス不調者が休職した場合

復職する際には治癒したかどうかが問題となります。

メンタルヘルスの不調が私傷病の場合

メンタルヘルスの不調が回復せず、休職期間が満了した場合には、就業規則の規定に従い、当然に労働契約が終了し、使用者が解雇できるか問題となります。休職、復職等を繰り返す労働者もいるので、その前後の休職期間を通算できる就業規則を置く等の事前対応が必要となります。

(4)従業員にメンタルヘルスの不調者が発生した場合の対応

本当にメンタルヘルスの不調なのかどうかを、健康診断の結果のみではなく、様々な観点から検討します。

①従業員の健康状態を直接確認します。

②労働時間、業務の量、業務の内容、ノルマの管理、地位の変化を検証します。

③セクシャルハラスメント、パワーハラスメント、いじめ等の有無を確認します。

 

メンタルヘルスの事前対策としては、事前に会社側は、従業員に対し、メンタルヘルスケアの教育、研修情報提供、改善施策の履行等未然にメンタル不調の者を発見できるようにするシステム構築をすべきといえるでしょう。

 

また、メンタルヘルスの問題の大きな原因として、長時間労働があります。

従業員に長時間の時間外労働など過重な労働をさせたことにより疲労が蓄積している場合には、脳心疾患発症のリスクが高まるとされ、適正な労働時間管理と従業員の健康管理はメンタルヘルスの問題を解決する重要な要素となります。

 

Q: 業務起因性のない精神障害を発症した場合は?

まずは、本人の健康状態の調査を行うべきといえます。

調査方法としては、本人への聞き取り、本人ないし本人の同意を得た上で主治医への診断書や診療録等の提出依頼、主治医との面談、本人への会社指定医の受診依頼もしくは受診命令等を出すことが考えられます。

 

調査の結果、労働者がメンタルヘルスの不調に陥っていると判断した場合には、会社は労働者に配慮したうえで対応することが必要となります。

 

具体的には,

①配置転換を行うこと、業務軽減措置をとること

②休職制度がある場合には、休職の要否を検討

③休職制度がない場合には、休職制度の要否について検討

④休職制度を利用した場合には、休職期間満了時に私傷病が治癒しているか否かで争いになる可能性があります。

 

Ⅱ,労災補償について

(1)精神障害の業務上外の判断の必要性

労働者が精神障害に罹患した場合、それが業務に起因して発症したかどうかで大きな違いがあります。

業務上であれば、身分上は労働基準法19条により、その療養のための期間はたとえ長期間休職したとしても解雇されず、経済上は労災補償により保護されることになります。

 

精神障害とは…

労働基準法施行規則の別表第1の2第9号には,

「人の生命にかかわる事故への遭遇その他心理的に過度の負担を与える事象を伴う業務による精神の及び行動の障害またはこれに付随する疾病」と定義されています。

精神障害に該当するかどうかの認定はどのようになされるのでしょうか?

 

精神障害の発生要因としては,

①業務に起因する心理的負荷(ストレス)

②業務以外の心理的負荷

③個性的要因(既往症、性格傾向等)が,考えられます。

 

①ストレスが原因で精神障害を発生した発症したとして労災請求されるケース

労災認定は「心理的負荷による精神障害の認定基準」によって判断されます。

 

認定基準の概要

わかりやすい心理的負荷評価表(ストレスの強度の評価表)を定め,

いじめやセクシャルハラスメントのように出来事が繰り返されるものについては、その開始時からのすべての行為を対象として心理的負荷を評価することにし,

これまでのすべての事案について必要としていた精神科医の合議による判定を判断が難しい事案のみに限定することとしました。

 

ex 認定基準に関する裁判所の考え方

大阪地裁平成22.6.23 国・京都下労基署長(富士通)事件

多くの判例は、「認定基準」については、その内容に一応の合理性が認められるものの、その設定趣旨及び内容を踏まえると、裁判所が発症ないし憎悪した疾病と業務との間の相当因果関係に関する判断をするに際し拘束するものではないとしています。

 

Ⅲ 労災民事訴訟

(1)労災民事訴訟はなぜ行われるのでしょうか

労災保険給付では補償が不十分な面が大きいからであると言われています。具体的には、

 

①休業補償給付に関して、休業に入ってからの3日分は支給されない。

支給額は1日につき給付基礎日額の60%の相当額とされています。

(労働者災害補償保険法第14条)

つまり,休業損害の全額が支給されるわけではありません。

 

②障害が残った場合、支給額は同法別表に規定する一定額が支払われます。

(同第15条)

 

③遺族補償給付に関しても、障害補償給付と同じく一定額(同第16条の3)又、受給者が決められており、必ずしも被災労働者の相続人に給付されるものでもありません。(同第16条の2)

 

④労災保険給付には慰謝料が含まれていません。

例えば, 療養期間に対する慰謝料、後遺症に対する慰謝料等です。

使用者に故意又は過失がある場合は、民法の規定によって損害賠償請求をされる可能性があります。

 

(2)安全配慮義務を理由とする損害賠償請求

労働契約法第5条は,「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするもの」としています。

「安全配慮義務」と呼ばれる規定です。判例においては、自衛隊八戸駐屯地事件(最高裁昭和50.2.25判決)で初めて認められました。

 

精神障害に関する安全配慮義務は?

労働契約法第5条で明記されています。

では,どのような内容の安全配慮義務が具体的に要請されるのでしょうか。

 

電通事件(最高裁平成12.3.24判決)では

「使用者は、その雇用する労働者に従事させる義務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないように注意する義務を負う。」としました。

 

(3)うつ病等の精神的障害が業務に起因したものであることを理由として、使用者に対して損害賠償請求をする場合

 

原告側(労働者側)は,請求原因事実として主張立証します。

具体的には,

①うつ病等の精神的障害に罹患したこと

②それが業務の過重性等と相当因果関係があること

③自殺に至った場合は、うつ病と自殺の因果関係があること

④使用者に安全配慮義務違反があったこと

です。

 

被告側(使用者側)は上記の①、②、③、④を否認した上、予備的に被災労働者の精神障害あるいは自殺という損害の発生、拡大について、心因的要素など被災者側(労働者側)の事情の寄与に関して過失相殺を主張することになります。

過失割合の判断は裁判所の裁量によります。

(最高裁昭和34.11.26判決)

 

(4)損害賠償金の算出方法

例:過重労働があって、そのことによりうつ病に罹患し,自殺した場合

①死亡するまでの入通院関連費用や休業損害のほか、死亡による逸失利益、葬儀費用等を合算して、被災者の全損害を算出し,

②過失相殺を適用して、全損害のうち、加害者の負担すべき金額を算出し,

③損益相殺として、労災保険等によって補償を受けた部分を控除します。

 

(5)不法行為責任と契約責任(債務不履行責任)の差異

労災補償給付によって補填されない損害を請求する際、不法行為責任(民法709条)、契約責任(民法415条)の差異はあるのでしょうか。

 

①時効については契約責任構成の方が原告に有利です。(不法行為責任の時効は3年とされているのに対し,契約責任の時効は10年です。

②立証責任については、いずれかをとるかで差異はありません。

③遅延損害金の起算日

不法行為責任⇒不法行為時

契約責任⇒履行の請求時から起算されます。

④労働者死亡によって被った遺族固有の慰謝料請求

判例では,不法行為責任としては認められるが、契約責任としては否定しています。(最高裁昭55.12.18)相続人については被害者本人の慰謝料請求権を相続する構成であれば、差異はないとしています。

⑤弁護士費用の請求

不法行為責任は、一般的に認められます。契約責任は原則として認められませんが、労災民事訴訟においては安全配慮義務違反の事例では認めるのが一般的で、差異はありません。

 

Ⅳ 休職と職場復帰

メンタルヘルスに関する疾患により休職した労働者の職場復帰に関して,厚生労働省より「心の健康問題により休職した労働者の職場復帰支援の手引き」というパンフレットが発行されています。

https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/101004-1.html

 

それによると・・・

①第1ステップ

病気休業開始及び休業中のケア

「病気休業診断書」が提出され、休業開始。

⇒労働者が安心して治療に専念できるよう、傷病手当等の経済的保障、公的又は民間の職場復帰支援サービス等の情報提供の支援を行う。

 

②第2ステップ

主治医による職場復帰可能の判断

⇒職場復帰手続きは、労働者から主治医による職場復帰が可能であるとの判断が記載された診断書が提出されることによって開始。

産業医に当該診断書を精査した上で意見を述べてもらい,取るべき対応を判断することが重要です。具体的には,

⑴労働者の職場復帰に対する意思の確認

⑵産業医による主治医からの意見収集

⑶労働者の回復状況、今後の就業能力等

 

③第3ステップ

職場復帰可否の判断及び職場復帰支援プランの作成

必要な情報の収集と評価を行った上で、職場復帰が可能かどうか判断をし、支援プ  ランを作成。

 

④第4ステップ

最終的な職場復帰の決定

 

⑤第5ステップ

職復帰後のフォローアップ

⑴疾患の再発についての早期の気づき

⑵職場復帰支援プランの実施状況の確認

⑶復帰後の状況についての主治医の意見の収集

 

メンタルヘルスによる休職に関しては、主治医、産業医の果たす役割は大きいことから,主治医任せにするのではなく、後の労働者との争いを避けるためにも、会社としては、主治医、産業医との連絡は密にしておくべきといえます。

 

(6)会社の安全配慮義務として、手引きなどに記載されていることを実施の必要性

うつ病に罹患した労働者が長期休職に至ったとして、職場復帰について「手引き」による支援が全く行われておらず、そのために更に長期にわたる治療を要することになった場合に、安全配慮義務違反が問われかねない事態になります。

 

精神疾患が理由で長期欠勤、その後就業規則の規定に従って休職する場合、欠勤あるいは休職を発令する時期に疾患が業務によるものかどうか精査していないと,休職期間満了が近づいたとき、あるいは退職、解雇予告を受ける頃から、「精神上の疾患である」と主張がされる可能性があります。

 

(7)休職期間満了によって、就業規則上退職又は解雇という取り扱いで、その取り扱いが争われたケース

①東芝事件(東京地裁平成20.4.22・ 東京高裁平成23.2.23)

②フィット事件(大阪地裁平成22.9.15)

③ライフ事件(大阪地裁平成23.5.25)

いずれも,休職の原因であるうつ病が加重な業務によって生じたものとして、解雇は労働契約法19条違反として主張し認容されたケースです。

主張に反論できるためにも、事前に休職に入る段階で、主治医、産業医の協力を得て、疾患が業務に関連しているのかどうかを見極めておく必要があります。

仮に、業務に関連しているのであれば、リスク回避のために職場復帰を視野に入れて動いておく必要があります。

 

いかがでしたでしょうか。

 

この記事をご覧になられて,「ウチの会社はメンタルヘルス対策が完璧にできている」と思われた方はいらっしゃいましたでしょうか。少しでも不安や疑問が残った方は,一度弁護士に相談されてみてはいかがでしょうか。このような問題は実際に問題が起こってから対応する場合(例えば従業員から労働審判や訴訟提起がされてから,あるいは労働組合から団体交渉の申し入れのある場合)と,問題が起こる前に,問題が起こらないよう予防措置を施しておく場合では,かかる時間も費用もかなりの違いがあります。弊所では初回相談を無料にて対応させていただいております。お気軽にお問合せください。

 

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